かさの向こうに縁あり
「……あ。そういえば、島原と言えばさあ……」



突然、父は何かを思い出したように、何故か平助ではなく島原の方にフォーカスアップした。

何のネタがあるのだろう、と食パンを口に含む。



「お母さんのひいおばあちゃん、つまり妃依のひいひいおばあちゃんね。若い頃、島原みたいな遊郭にいたらしいんだけど、嫌々友人に連れられて行ったのちのひいひいおじいちゃんが見初めて、なんとか身請けして、結婚したらしいよ」



「それに名前は“ひより”さんで、そこから妃依の読みをとって付けたらしいよ」と付け加えて、父は遊郭について詳しく説明を始めた。

やはり私の耳にはフィルターがかかってそれは入ってこなくて、ある単語が引っかかって仕方がなかった。



“身請け”――?


あれ、その話ってもしかして、と思って不意にぞくぞくした。

もしかして、というか、もしかしなくても。




あの連続していた夢に出てきた2人だ――




「たしか昨日あたりが命日とかじゃなかったかな……」



ああ、だからか。

なんて、偶然すぎるにも程があるけれど、そうと信じざるを得ない状況だ。


命日が近くなってきたから、存在を教えてくれたんじゃないだろうか。

あの女性が男性によって外の違う世界に連れ出されたように、私を違う世界へ誘ったんじゃないだろうか。


違う世界を見ておきなさい、と。


なんて、まったく現実味を帯びていない都合のいい解釈だけれど。


もう、口に入れた食パンの味も分からないくらいの衝撃だ。


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