かさの向こうに縁あり
冷静になって考えてみれば、こんな時間に外を歩いている人なんて、現代にもほとんどいないだろう。


なんたって、今は真夜中。

正確な時間は分からないけれど、私だってこんな時間に外に出たことはない。


やっぱり野宿確定、か……


諦めて、走るスピードを徐々に緩めていく。


肩で息をしながら、私はついにある家の前で足を止めた。

膝に手を置いて、前屈みになる。



「はあ……は……っ」



声が出ないはずなのに、息だけは声のようになって口から漏れて出ていく。

それだけは止められずに、闇に響く。


随分長く走ったからだろう、立つのもやっとで、足の裏はじんじんと激しい痛みが走る。

何本かの足の指から少し血が出ているようだ。


裸足だったということを忘れるほど、私は無我夢中で走っていたことに気づかされる。



暫く肩で息をしていると、漸く落ち着いてきた。

膝に置いた手を放して姿勢を戻すと、ついでに辺りを見回す。


この辺りもまだ家があり、今で言う“閑静な住宅街”のようだ。


家というのも江戸時代的な、いや、明らかに江戸時代のもの。

どう見ても家は木造にしか見えない。



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