かさの向こうに縁あり
立っているのが疲れたから、家の壁を背もたれにして静かに座った。




……つもりだった。



どうやら想定外のことが起こってしまったらしい。


私は静かに、音を立てないようにと努力して座ったはずだった。

でも実際にはそうではなかった、らしい。



ドン、という派手な音を立てて背中が壁に当たってしまったんだ。



ここは……逃げるべき?

いや、でも待てよ?


心の中で葛藤を繰り返すうち、私は一つの思いに至った。



やっと人に会えるじゃん……!



もうこの際、誰かに会えればいい。

誰でもいいから、怖くない人に会いたい。


この何も見えない闇から、抜け出したいんだ。


夜中に脱走すると決めたのに、私はこの夜中という暗闇が嫌い。

それには今の今まで気がつかなかった。



じっとして黙っていると、後ろから小さくばたばたと走る音と、着物の裾が擦れる音が聞こえた。


男でも女でも、この際どっちでもいい。

いや、それは嘘だ。

自分が女だから、今出てきてもらいたいのは女の人に決まっている。




「ーーこんな時間に、どちら様ですか?」



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