かさの向こうに縁あり
……と同時に、何故か私も開けられた扉と同じ方向、右に飛ばされた。

扉は引き戸だったらしい。


いきなりのことで全く準備していなかった心臓が、危うく止まるところだった。


気を取り直して、頭を働かせる。

どうして飛ばされたのか、私はすぐに思い至った。



私が背もたれにしていた所が、なんと引き戸だったんだ……



それを示すことは結構あったのに、気づかなかったなんて!



「あら、女の子が居るんじゃないの」



少し呆れたように、女性は腰に手を置いて私を見下しながらそう言った。

言葉こそ優しいが、表情は何というか、不気味だ。


とりあえず謝ろう、と思い立った私は口を開いた。


でもそこで、“あること”を忘れていたことに気づかされる。



そうだ、声が出なかったんだ……



無我夢中で走ってきたからか、声が出ないことがすっかり頭から抜けていた。

思わず俯く。


こんな所で墨や紙を出して書くのはおかしいし、じゃあどうやって伝えようか?


そう考えていると、私の俯く姿を見た女性が何かに気づいたように口を開いた。



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