かさの向こうに縁あり
「もしかして……声が出ないの?」



女性は唐突に、しかし慎重に、その台詞を口にした。

そして私はこくりと頷いた。


今まで普通に話せていた分、その台詞を言われると胸が痛くなる。



「そうなんだ……」



声って、言葉って、こんなに大事なものだったんだ。


普段、ほぼ無口で無関心な私にとって、言葉はただ存在するものでしかなかった。

だからあまり気にしていなかったのに。


実際に伝えるのはむず……



「って、違うわよ!貴女、こんな夜中にどうしたの?」



突然、我に返ったように女性は声を発した。

おかげでこっちはびっくりして、また心臓が止まるところだった。


女性ははっきりとした性格のようで、ズバッと問いかけてくる。


でも会話をするには、筆やら墨やらを取り出さなくてはならない。

どうするか……



「もしかして、家出してきたの?」



また唐突に、質問を投げかけられた。

口の代わりに、「いいえ」と言うように首を横に振る。



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