かさの向こうに縁あり
「ほら、早くしないと風邪引くわよ?」



そんな女性の優しい声ではっと我に返り、視線を彼女に移す。

それと同時に、私は薄着で裸足だったことを思い出す。


一度気がついてしまうと、寒さに全身を包まれる。

思わず身震いをしてしまった。


私の様子をじっと見ていた女性は微笑んで、手を引いて自分の家の中へ誘う。

私はぎこちない笑顔を浮かべ、手を繋がれたまま家の中に入った。


玄関の引き戸を閉めた時、漸く繋いでいた手を離す。


昔の家を見回しながら、長い廊下らしき所を女性の後ろについて進んで行く。


暫くすると両側に部屋が現れ、右側の障子を開いた。

この部屋を使っていい、ということだろう。


入った部屋には提灯しかなく、隅にあるそれにさっと明かりを灯した。

一瞬で淡い光が現れた。



「布団敷くから、ここで寝てね」



そう言いながら女性は、慣れた手つきで布団を敷く。


ぼーっとその様子を見ているといつの間にか敷き終え、彼女は踵を返すところだった。



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