かさの向こうに縁あり
あの、と言いたくて、いきなり女性の方を向いた。



「ん、どうかした?」



そう言いながら障子に手をかけて、きょとんとした表情で首を傾げている。


お礼だけはちゃんとしたかったけれど、今から筆や紙を出すのでは遅くなってしまう。

だから、首を横に振って微笑み、小さくお辞儀した。



「それじゃ、おやすみなさい」



私の行動を見て微笑み、そう言って女性は障子をゆっくりと静かに閉めた。



女性が去って暫くしてから、障子を背にして、はぁ、と息を吐く。

なんだか1日が物凄く長く感じられて、いつも以上に疲れた。


何の前触れもなく、意味も分からずに江戸時代に来て、いきなり殺されそうになって、新選組という人斬り集団の人に出会って……

頭の中が混乱して、どう整理していいかも分からない。


どうしてここに来たんだろう。



いつになったら、私は元の時代に戻れるんだろう。



心中でそんなことを考えながら荷物を置くと、しゃがみ込んで掛け布団を掴み、布団の中に体を入れた。

足の指の怪我すら忘れて。


そしてすぐに、私の意識は夢の中へと誘われた。



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