かさの向こうに縁あり
何を言うのかと思えば、聞き慣れた台詞が飛んできた。



「妃依ちゃん……って、喋れないのか?」



今の私には、それに対して何の抵抗感もなくなっていた。

声が出ないのは真実だから、仕方がない。


今さらですか、と思いつつ、口元を若干緩めて頷いた。


すると原田さんは口をぽかんと開けて私を見つめた。

一方で尾関さんは、口の端を上げてふっと鼻で笑った。



「もっと早く気づかなかったんすか?」


「き、気づいてたよ!少なくともお前よりはな!」


「嘘はいけないっすよ?」


「……ふんっ!」



尾関さんの「俺はとっくに気づいてましたよ」と言わんばかりの口振りに、原田さんは拗ねる。

何も言えないらしい。


この癖のある性格なら、尾関さんと尾形さんの名前を間違えない気がするのは気のせいかな……

いや、それ以前に名前が似ているから間違えるんだろうけれど。


私が原田さんと視線を交えていると、はっと何かに気づいたように彼は再び頭を下げた。



< 94 / 245 >

この作品をシェア

pagetop