かさの向こうに縁あり
ささっと書いた紙を原田さんに見せる。

すると、彼は握った手をもう片方の手のひらにぽんっと叩いた。



「おお、いいな!じゃあ誰かから借りてくるぜ!」


「盗まないでくださいね」


「盗むかよっ!」



またそんな原田さんと尾関さんの会話が繰り広げられる。

ものすごい勢いだ。


でも尾形さんはやはり静かに、ただ座っているだけ。

逆にそれもすごい。


怒りながら立つと、さっさと障子を開けて百人一首を借りに行ってしまった。



それからというもの、尾関さんと尾形さんは何も話をしなかった。

無論、私も。


私達の間には重苦しい沈黙が流れ、何か書こうにも話のネタがない。


それに、生きる時代が違うと尚更ない。



昔の人って、どんなことを話していたんだろう。


お堅い政治の話、それとも世間話?

はたまた……恋愛?


まあ何にせよ、私にはどれも関係ない会話。



だって、私は元からこの時代の人間じゃないし――



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