5センチの恋
どうしてこの体制になったのかはどう記憶を掘りおこしても分からない。
あたし自らがこのベッドに無意識に入りこんだにして、イチが抱き枕よろしくあたしを抱き締めたという仮定を結びつけたとしても、
なんで、あたし、こんなに緊張してんの、
体が熱くなって、ドクドクと心臓が煩い。
酔いに任せて――なんてふざけてた自分に、んなわけないと突っ込んだのも自分。
それなのに、
計算ミスだったのは、ここに来て自覚した自分の感情。
ゼロが百なら、百じゃない。だけど、ゼロでは決してない。
唇と唇、5センチの至近距離に近付いて異常に緊張したあたしの体内アルコール濃度の薄さは、脳をクリアにして、イチの腕を振り解かない自分に新しい感情を植え付けるのに充分だった。