5センチの恋

あれから、何度か泊まったりしたけど、気が抜けたあたしとマイペースなイチの距離は、あの夜の5センチを超える事は無かった。


―――はぁ


鏡の前で深く息を吐く。飲み過ぎたって仕方ないじゃない。

イチは言った。昨日、あたしが家に帰ってもまだ飲まずにいられなかった一言を。

『朔、俺おまえの事好きになりそうだったけど、ならなくて良かった。おまえとはずっと友達でいたいから。おまえみたいな女なかなかいないし』

それは、何とも思ってない男から言われれば、あたしも光栄だと言って笑えるのかもしれない。


だけど、あたしはこの鈍感男に恋する馬鹿な女だ。


『イチみたいな男もなかなかいないよ』


あたしはそれだけ言うのが精一杯で。さゆりちゃんが羨ましい、なんてノリでも言えなかった。

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