5センチの恋
イチは酔っても全く変わらない顔でビールをグビと飲み干した。そして「さゆりちゃんに乾杯、俺に乾杯」とかほざきながら普段見せない笑顔を惜しげもなく振り撒く。
「すいません、生下さい」
「朔、ペース早いな?オヤジ、俺にも」
店主のハゲちゃびんにオヤジなんて馴れ馴れしい言葉使いやがって、この店初めてだろが!
「今夜はイチの奢りだしね!」
「月末にひどいぞ、朔」
「知るか、この幸せバタフライが」
「バタフライ?なんだそれ」
蝶だよ!蝶!
あたしは引きつった笑顔のまま早くアルコールをくれと胸の内で叫んだ。
あたし、水原朔。彼氏いない歴三年、それと同単位にこの馬鹿男に片思い。
只今、失恋が決定しました。