君はガラスの靴を置いていく




『それで夏期講習どうだったの?』

つーか今帰りって事は午前中からずっと勉強してたって事か?俺だったら頭から火が出そう。


『うーん、普通だよ。みんな集中してやってるから付いて行くのがやっとかな』

俺らが海で遊んでる間、必死で勉強してる奴がいる。こうやって同級生でも差が生まれるんだろうな。

残念ながら全く気にならないけど。


『洋平君?』

千花は真面目で優等生だけど、遊んでばかりいる俺に説教したりしないし、俺も千花に遊びを強要したりしない。

千花は千花がやりたい事を、
俺は俺がやりたい事をやってるだけ。

だからそれですれ違いが生まれても、お互いしたい事が違ったんだなって思うぐらい。


『…………洋平君、どうかした?』

2度目の問いかけに俺はやっと反応した。



『あ、いや別に。そう言えば俺の事、名前で呼ぶの慣れてきた?』

『え、あ、うん、』

『じゃぁ、洋平って呼んでよ』


『えっと………よ、よ………』

『はは、千花は可愛いね』

今が楽しければいい、
今が満たされればいい。

俺にとって大事なのはそれだけ。


『明日の夜会おうよ、また連絡するから』


また忘れてしまいそうな事を約束して、千花との電話を切った。


千花は可愛いし、良い子だし、何より癒される。
でもこの気持ちが長く続かない事を俺は知ってる。




『先輩って彼女と話す時、そんな顔するんですね』


-------------その時、背後で声が聞こえた。



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