君はガラスの靴を置いていく
まるは自転車を取りに来ただけなのに、何故か俺の部屋でくつろいでいる。窓からは風が一切入らなくて暑いけど、外に出る気力はなかった。
『あ、そういえば知ってる?』
まるは漫画を読みながら思い出したように言った。
『なにが?』
俺はまるが買ってきたグラビア雑誌をパラパラとめくっていた。
アイドルの水着にははっきり言って興味がない。
だったら増田が持ってくる18禁のやばいやつの方が面白い。
『明日香ちゃん、この前海で知り合った人といい感じらしいよ』
あぁ、あのチャラ男ね。
てっきりあの日限りだと思ってたけど。
『へぇ、良かったじゃん』
棒読みの返事を返した。
明日香の恋話なんてこのグラビア雑誌より興味ねーし。
『でも俺見ちゃったんだよね。
あの男がやばい所に入っていくの』
『やばい所?』
『ほら、街で女の子に声かけて、そのまま裏ビデオに売られるって噂あるじゃん?あれやってんの3年前に倒産した雑居ビルの一室って言われてるんだけど、そこから男が出てくるの見ちゃったんだよね………』
確かに女子高生に声をかけて、付いて行ったら無理矢理……なんて話しはよく聞く。
正規品じゃない裏ビデオは高く売れるらしいし、
それを商売にしてるやつも少なくない。
でも噂は噂だ。
本当にやってる証拠はない。
『明日香ちゃん、大丈夫かな……?
俺の見間違いならいいんだけど』
『大丈夫じゃね?もしそれが本当だったらとっくに警察沙汰になってるし、あの男が仮にやばい奴だったら明日香と何回も遊んだりしねーだろ』
『信用させる為に遊んでるかもしれないじゃん!
それに警察沙汰にならないのは男達に脅されてるからだって。言ったらビデオばらまくぞ!とか』
『ドラマの見すぎだよ』
俺はまるの話しを受け流した。
気にならない訳じゃないけど、明日香は夢中になると周りの意見なんて聞かないし、本人に忠告したところで笑って済まされるだけだ。