君はガラスの靴を置いていく
ピタリとくっつかれてる体温は人のもので幽霊ではない。俺はその長い指をほどいて振り返った。
『騙したな』
暗闇の中で微かに悠里の匂いがする。
『迫真の演技だったでしょ?
こんなのに騙されるなんて、先輩も馬鹿ですね』
悠里はオレンジ色の間接照明を付けた。
その明かりに照らされた悠里の顔はとても悪い顔をしていた。
『随分、セコい事するんだな』
『だって先輩、普通に私の部屋に来て下さいって言っても来ないでしょ?それに……庶民的な私を見て先輩の警戒心が少し薄れたかなって。だからチャンスだと思ったんです』
悠里の部屋は俺の部屋の倍ぐらい広いけど、置いてある物は至って普通だった。どうやら他人に見られない場所はどうでもいいらしい。
『じゃぁ、写真は?
増田達が来るっていうのも嘘なのか?』
『はい、とっさに思い付いた割には信憑性があったでしょ?ちなみに両親は昨日からフランス旅行に行ってて帰ってきません』
………………くそ、油断した。
暑さでそこまで頭が回らなかった。
俺は深いため息をついて、ベッドに腰かけた。
騙されたとはいえ焦る必要もない。
相手は悠里一人だし、帰ろうと思えば帰れる。