君はガラスの靴を置いていく
勿論、待ち合わせなどしてない。
『え?………み…宮澤君?』
糸井千花は状況が分からず、目を丸くさせていた。でも俺はそんなのお構い無しに糸井千花の手を引く。
『一緒に帰る約束してたのに遅れてごめんね。
じゃぁ、行こっか』
豊津先輩の目の前で演技を強調した。
予想通り先輩達はめっちゃ俺達の事を見ている。
『え……ちょっと………』
糸井千花の戸惑いと一緒に俺はそのまま外へと連れ出した。
これは多分、男としてのちょっとしたプライド。
向こうが狙ってると分かってて、みすみす親しくなんかさせないよ。3年に負けてらんないし。
俺は外に出た後も糸井千花の手を引っ張り、強引に自転車置き場へと連れてきた。
『ごめん、びっくりした?』
やっと手を離し、糸井千花の方を見る。
『びっくりって言うか………どうしたの急に?』
握られた腕を擦り、それは少し赤みを帯びていた。
『ごめん、強く握りすぎた。千花ちゃんを連れてきたのは………
まぁ、色々事情があったんだけど』
ただ単に豊津先輩に負けたくなかったから、とは
絶対言えない。とりあえず今言える事は………。
『このまま一緒に帰ろうか』
『え?』
これは一応自分で作ったチャンスな訳だし、糸井千花を知るキッカケになるかもしれない。
まるには後でメールしとけばいいし。
『千花ちゃんって電車通学?それとも徒歩?』
俺は自分の自転車を用意して勝手に話しを進めた。
『最寄り駅まで電車で……そこから学校までは徒歩だけど………』
『そっか。じゃぁ駅まで送るよ。乗って』
俺は自転車の荷台を指さした。