君はガラスの靴を置いていく





『傷付けた事、後悔してる?』


まるが諭すように聞いてきた。

俺は何も言わなかった。どっちの答えにしても俺には何も言う資格はない。

勝手に近付いて、好きにならせて、振った。
それが最後に残った事実。


『宮澤はさぁ、今までだって同じような事してたよ?急に別れる事になって影で泣いてる子何人も見てきたし』


『………』


『でもそれが宮澤じゃん。そのやり方でやってきたんでしょ。それなのになんで糸井さんにだけそんな感情が湧くの?』


『………』


『好きなの?糸井さんの事』


それは俺にだって分からない。

腐るほど女と付き合って経験を重ねてきたけど
“好き”という感情を持った事がないから。

いいな、可愛いな、一緒にいたいなって愛しく思っても、恋しくなって会いに行ったり胸が締め付けられる想いなんて一度もない。


恋愛経験豊富なフリをして、

きっと俺は恋愛をした事がないんだ。


だからこの感情はなんなのか、

あの二人を見てイラつくどころか目を背けたくなる衝動とか、

保健室で交わした千花との会話を繰り返し考えてる事とか、

満たされてたはずの日常が喪失感でいっぱいな事とか、


自分の知らない感情が次々溢れてきて、

別人になったのは俺の方だ。

こんなの知らない。



< 190 / 300 >

この作品をシェア

pagetop