君はガラスの靴を置いていく
『私はてっきりガンガン奪いに行くのかと思ってましたよ。案外臆病なんですね』
『……』
俺だって出来る事ならそうしたいけど出会った頃と今じゃ状況は違う。振っておいて今さら好きだとか言える訳ないし、そもそも千花は…………
『分かりますよ。先輩がモーションかけられない理由はアレですよね』
悠里の視線の先には2組の教室に入っていく豊津先輩の姿。先輩をアレ呼ばわりする悠里はやっぱり敵には回したくない。
『好きだから別れてって言えばいいのに』
『は?そんな事言える訳ねーだろ』
どの口がそんな事言えるんだよ。言ったところで引かれるだけだろ。友達どころか二度と目すら合わせてもらえない。
『私なら言えちゃいますけどね。だって別れた後に気持ちを自覚したんだから仕方ないでしょ?』
『………』
『欲しいものは遠くから見てたって手に入りませんからね』
悠里の言葉が正論に聞こえてくるから怖い。確かに俺は千花への気持ちは自覚したけど、手にいれるとかいれないとかそんな事考えられる立場じゃない。
千花はすごく幸せそうだし、いつも笑ってる。
それを壊したいなんて思えるはずがないんだ。
『まぁ、豊津先輩はただタイミングが良かっただけだと思いますよ』
『は?』
『傷ついてる彼女に近付いて優しい言葉で慰めて手にいれた。私そういう影からチャンスを伺ってる人って好きじゃないです。ほら、兎と亀って童話の亀みたいな人』