君はガラスの靴を置いていく
きっと先輩は俺より大人で自分の感情より優先できる余裕がある。図書室を出たのも今ここで大声を出さないのも千花の為。
千花を困らせたり、悲しませたりさせたくないから。
それに比べて俺は子どもだ。
ふたりの邪魔をしなければ何も始まらないし、
何も終わらない。
千花と先輩の“今”を壊さないで済む。
『俺、千花の事が好きです』
先輩がいる限り、あの席は空かない。
誰も許してくれなくても俺は影から想うだけなんて嫌だ。奪うなら正々堂々。もうコソコソしたり隠したりしたくない。
『諦めてって言ってもその目は無理そうだね』
先輩は諭すように言った。
『でも好きって事は俺達を別れさせたいって事だよね?』
『……』
『宮澤君は千花ちゃんを傷付けた。君は知らないと思うけど別れたあと千花ちゃんはずっと元気がなくてご飯も喉が通らないほどだったんだよ』
『……』
『どうしたの?って聞いただけで千花ちゃんは泣いた。もうあんな姿は見たくない』
今さら何を言っても俺はそれに対して償う事は出来ないだろう。謝ったところでその事実が消える事はない。
『俺は千花ちゃんを傷付けないし泣かせないよ』
勝てるものなんてない。むしろそんな堂々と宣言出来る自信も俺ない。
『でも俺も諦めたくない。それだけははっきり言っておきます』
先輩が羨ましい、
先輩の場所がほしい、
千花を誰にも渡したくない。
もう後戻りは出来ない。
『だけど最終的に決めるのは千花ちゃんだから。
千花ちゃんは君を選ばない。俺が選ばせないから』
先輩がはじめて強い目をした。