君はガラスの靴を置いていく
『-------------千花っ!』
千花は水のみ場にいてハンカチを濡らしていた。
『どうした?具合悪い?』
『………宮澤君。ううん、平気』
ハンカチで口を押さえる千花はどう見ても顔色が良くなかった。
『保健室行く?』
『大丈夫。ただちょっと騒がしいところに居たから疲れただけ』
ここからでも体育館の演奏はよく聞こえた。どうやら2曲目がはじまったみたいで盛り上がっている。
『………もしなんかあったら先輩に言いな。
次で演奏は最後だし』
保健室に付き添う事も出来ない。千花の弱音を聞けるのは先輩だけ。それが彼氏の特権だ。
『先輩あんな風に女子に人気あるけど一途だし心配ないよ。今日も一緒に帰る……』
自分の本心を隠しながら千花を見るとその目から一筋の涙が溢れた。
『え、え……ど、どうした?』
泣くぐらい具合悪いとか?だったら近くの先生とか呼んだ方が早いかもしれない。
『ちょっとここで待ってて』
『違うの、これは別に……平気だから』
『なにが平気なの?泣いてんじゃん!』
状況が分からず俺は戸惑うだけだった。
『ごめん、大きい声出して。
………でも泣かれると心配になる』
千花の涙は苦手だ。
自分のせいで泣かせてしまった事があるから余計に。今は手で涙を拭う事も出来ないし抱きしめる事も出来ない。
なにも出来ないからもどかしい。