君はガラスの靴を置いていく
急いで図書館に向かう間、千花は俺に触れなかった。
前はギュッと握ってくれた手もカバンを握ったまま変わらない。
『千花ごめん。この前は変な事聞いて』
“豊津先輩の事好きなの?”
誰だって急に聞かれたら驚くし答えづらいと思う。
『ううん、気にしてないから』
もしあの時千花が「好きだ」と言ったらこんな風にもう1度二人乗りをする事はなかった。
諦められなくてもそれなら仕方ないって、どこかで歯止めも効いたと思う。
『あれが最後だったな……』
『え?』
『いや、なんでもない』
きっとあれが最後だった。
好きだけど言わない。
好きだけど一線を引く。
好きだけど邪魔したくない。
好きだけどそれ以上の事を躊躇してた。
あの時俺は2回も聞いたよ。
だけど千花は言わなかった。
だから俺ももう聞かない。
今さらとか間違ってるとか自分勝手だとか、
そんなのは知らねーよ。
俺は先輩から千花を奪い返す。
もうブレーキはかけない。