君はガラスの靴を置いていく
『そういえば私に話したい事があるって言ってたけどなに?』
千花は暫しの間ペンを止めて俺の顔を見た。
見つめるのは得意だけど見つめられるのは慣れてない。
『あー、えっと……なんだっけ』
『え?』
『ちょっと度忘れしたから後で思い出しとく』
全部ただの口実です、なんて言える訳ないし。
二人きりで話したかったって正直に言ったらどうなるんだろう?
そのあとも千花は黙々とペンを走らせていた。
俺は我慢しきれずあくびしたり携帯をいじったり。やる事はないけど不思議と退屈だとは思わなかった。
『もうこんな時間だね』
千花が手を止める頃にはすっかり窓の外は暗くなっていた。
『そろそろ帰る?貸出カード作れば本借りて帰れるらしいよ』
『じゃぁ、作っておこうかな。まだ調べ終わってないし、また来ると思うから』
千花が借りる本を選んでいると、どこかで携帯のバイブ音が鳴っていた。俺ではないし、音を辿るとそれは千花のカバンからだった。
…………長さからして電話っぽい。
千花は携帯を見るなりチラッと俺の方を見てどこかに行ってしまった。
多分豊津先輩だ。いや、絶対そうだろ。