君はガラスの靴を置いていく
『先輩。私の本当の父親はね、ギャンブル好きでボロアパートに住んでるような人だったんです』
悠里はゆっくりと過去の糸をほどくように話始めた。
『うちの母は昔からお金には困ってなかったのに最初の父に一目惚れしたらしいんです。それで結婚して私が産まれて。母もその時だけは苦労したっていまだに言います』
『………』
『借金だけ残して消えたくせに今もお金を貸してほしいって訪ねてくる』
表情は変えずに淡々と言ってるけど膝に置かれた手には力が入っていた。そして次の言葉でずっと掴めなかった悠里の核心部が見えてきた。
『世の中お金が全てなんです。だから私、愛とか全然信じません。むしろそれすらお金で買えると思ってるので』
もしかしたら悠里は大人の汚い部分や見たくないものを見てきたのかもしれない。
それでたどり着いたのが今の悠里。貰えるものは貰い、使える武器は使い、信じるのは自分だけ。
『だから色々な人から想われてる糸井先輩が羨ましいです。一生懸命それを追う先輩もね』
少しだけ本音が見えた気がした。
『一応これでも応援してるんですよ?同じ同志として。だから見せてくださいよ。清く正しい付き合い方。純愛ってやつを』
まるでそれは自分では手に入らないものを俺に求めているように見えた。
純愛なんてそんな綺麗なものじゃねーよ。散々好き勝手して、傷つけて、その上未練たらしく追いかけてる。
汚くて不純だらけの俺が今更純愛なんて出来る訳がない。
今の俺が出来るのはこの気持ちを千花に伝える事だけだ。