君はガラスの靴を置いていく
千花を傷付けた事も馬鹿だった自分も後悔してる。
千花の事を想うなら身を引くべきだって事も、
先輩との事も応援してあげるべきだった事も分かってる。
心だけで想えば済んだんだ。
誰にも言わず、1人だけで後悔して、そんな片想いを本当はしなきゃいけなかった。
グッと込み上げるものを堪えていると千花がさっきの言葉に付け足した。
『でもね、宮澤君と離れて少し違う視点で見てみたら宮澤君は全然大人なんかじゃなかった』
『え……?』
『嫌な事はすぐに顔に出るし臆病な所もあるし、
何より私に話しかけてくれた宮澤君はいつも慌てたり困ったりしてて、どうしようって悩んでた私と同じだなって思ったの』
そして距離を縮めてきたのは千花の方だった。
戸惑う指先が俺の手に触れて赤ちゃんのように小さく握る。
『嫌いになろうとしたよ。何回も』
ポロリとその瞳に溜まってた涙がこぼれた。
『ダメな所も嫌いな所も沢山探した。だから迷いながらここに来て、その間に宮澤君のいい所も数えてみた』
指から伝わる体温と脈が交差する。
『嫌いな所は片手半分で足りるのに好きな所を数えたら両手じゃ足りなくてすぐにここに着いちゃった。だから石段の前でまた嫌いな所を探したけど、私ずっとずっと宮澤君の事ばっかり考えてる』
『……』
『頭で考えても駄目な事ってあるんだね』
人差し指から中指。そして薬指を重ねて千花は微笑んだ。
その瞬間、俺は千花を強く強く抱きしめた。