君はガラスの靴を置いていく



その体温とぬくもりがただ嬉しくて、ドクンドクンと鼓動する音はお互いに同じだった。


『千花ごめん』

初めて声が震えた。

『どうして謝るの?』

千花の視線が俺に向こうとしたけどそれをギュッと制止した。

どうして?

きっと辛い決断をさせた。

沢山悩ませたし沢山苦しませたと思う。


『宮澤君。今度は私が宮澤君を選ぶの。
誰に幸せにしてもらうかじゃない。誰と幸せになりたいか。そう考えたら答えは1つだよ』


俺は千花を幸せに出来ないかもしれない。

幸せにしてやるなんてカッコいい事も言えない。

「ずっと」とか「一生」とかそんな不確かな事も言いたくない。

俺はそっと千花の体を離して目を見つめた。

千花の瞳に俺がいる。
俺の瞳に千花がいる。

それは奇跡みたいな事。


『俺も千花と幸せになりたい。千花じゃないとダメなんだ』


こんな俺を選んでくれた。俺は何も持ってないけどそれでもこの手を掴んでくれた。


千花だから苦しい、
千花だから切ない、
千花だから愛しい。

千花にしか動かない感情が沢山ある。



『好きだ』


この二文字を言いたかった。

言っちゃいけないと何度も飲み込んだけど、
それでも消えてくれなかった言葉。



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