雪月花~死生の屋敷
非常に解りやすい。この反応は、あの子の事好きでしょ?と聞いて、顔を赤らめながら違うと言うようなものだ。

子供の良い意味でも悪い意味でも、素直な一面が垣間見えた瞬間でもあった。

「そうなの…ユキちゃんは、お母さんに会いたくないの?」

「…知らない」

一応返事は返してくれるものの、先ほどと同じ返答を返すユキちゃん。この時私の中で、今まで表に出る事が少なかった、母性本能と言うものが働いた。

私はユキちゃんに近づくと、座っている状態のままユキちゃんを抱きしめた。

ユキちゃんの体は適度に冷たくて、普通の子供の体温より低い感じがした。でも氷の様に冷たい訳ではない。しっかりと実体もあるし、子供特有のやわらかい肌質もあった…。

目の前に居る子供は、霊魂なのだろうが、私には人と変わりない様に感じた。

ユキちゃんは、私に抱きしめられた時、最初は身体を固くして少し戸惑っている様に感じた。けど、それも少し経つと慣れてきたのか、私に身体を預けてくる様になり、最終的には私の胸の中にしっかりと収まった。

ユキちゃんが生前、何があったのかは解らない。でも断の札の文字を見る限り、ユキちゃんは人の優しさに飢えている様に思う。それにこの先の見えない通路の現象をユキちゃんが起こしているのであれば、おそらくそれは…。

私に遊んで欲しかったのだ。困らせる様な事をしたかった訳ではなく、単純に私にちょっかいを出してみたかっただけ。

だから私は恐怖を感じなかったのだ。ユキちゃんは悪い霊魂ではない…。

ただの…目の前に居るただ可愛い年頃の女の子なのだ。こんなに可愛い子供がいたずらはすれど、悪さをする訳がないじゃない…。

「ねぇユキちゃん。道を開いてくれない?私は会いたい人が居るの…」

私はユキちゃんの身元で、優しく問いかける様に話した。するとユキちゃんはゆっくり頷くと、通路の方に腕を向け、何かを口ずさむ…。

すると目の前にあった通路が歪み、壁が現れてドアが現れる。私は目の前で起きた現象に少し驚きを感じながらも、ユキちゃんの体をゆっくりと放し、立ち上がる。
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