雪月花~死生の屋敷
「ありがとねユキちゃん。それじゃ行くね…」

ユキちゃんにお礼を言った後、目の前に出来た入口に向かって私は歩み出す。私の後ろからはユキちゃんがちょこちょこと着いてくる。

ドアノブをしっかりと掴み、ゆっくりと引く…。ドアの先には横向きの通路が広がる。だが今まで違うのは、目の前には等間隔に窓が設置されており、闇夜に光る月灯りが、屋敷の明かりの様に通路を照らしていた。

それに今までの通路と比べても、この通路は広い間隔で作られている。おそらく車なら3台ほど縦に並ぶ事が出来るだろう。

窓から見える景色を見てみたくなった私は、窓辺まで行く。すると私の後ろを歩いていたユキちゃんは急ぎ足で私の隣に来ると、私の手を掴んできた。

私がそんなユキちゃんに視線を向けると、ユキちゃんは笑顔を返してくる。

「案内してくれるの?」

ユキちゃんは私の言葉に大きく頷く。正直何も解らない場所での案内役はありがたい。

でも本当に私の都合でこの子を振りまわして良いものなのだろうか…。ユキちゃんも雪月花に居る霊魂で、伝えたい事などがあるはずなのに。

ユキちゃんと私は、窓辺から見える景色を何気なく眺める。外に広がる景色は、非常に綺麗な光景だった。緑が生い茂る木々に、雪が舞う…。四季の二つを贅沢している様な感覚を覚える。

隣に居るユキちゃんを見てみると、少し背伸びをしながら景色を眺めていた。どうやら雪ちゃんの身長では、少し外の景色を見るのに足りないようだ。

私は隣に居るユキちゃんを、背中から抱きかかえる様にして持ち上げてみた。私の腕力は弱い方。でもユキちゃんの体は私の思っていた以上のそれ以上に軽かった。

まるで大きな縫いぐるみを抱えている感覚に似ている。

ユキちゃんは私の体に身を預ける様にして、外の景色に視線を送っている。そして時折私の胸元にうずくまる様にして、顔を押し付けてきた…。

甘えたい年頃なのだろう…。私もこんな時期があったに違いない。

そして初めて解った事だけど、小さい子供に甘えられる事は、大人にも小さな幸せをもたらす事だと感じた。目の前の女の子に大きな愛情を抱いてしまう。
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