褪せない花
セミがみんみん泣きわめき、自分たちの存在をやかましいほど主張するある日のこと。
「アスカ」
彼女が知っている限りでは、彼は初めて彼女の家の戸を叩いた。
前回来たときは彼女は眠っていたな、と思いながらドアの前でアスカを待つ。
ためらうような間があって、ゆっくりとその戸が開いた。
彼女の目が赤く見える気がするが、寝起きだろうか。
「…イズ、ナ」
いつもとは違う、自信のない震える声。
「アスカ、何かあったか?」
気遣う言葉をかければ、彼女の肩がびくっと跳ねた。
それは今までの態度とは全然違うもので、イズナの方までどぎまぎしてしまう。
「何もない。何もない…よ」
「そんなわけ…」
ないだろう、と言いかけて口が半開きのまま止まる。
涙目で自分をにらむ彼女の視線が、これ以上踏み込むことを許さなかった。