褪せない花
「まあまあ、こっち来てみろって」
鼻歌を歌いつつ手招きする彼に引きながらも、彼女は恐る恐る部屋の中へと足を踏み入れた。
煤と煙に満ちた部屋の大半を占領していたのは。
「花火玉…?」
「よく知ってんな、この御時世に」
俺の友達でも知ってる奴はなかなかいなかったと言って彼は、少し驚いたように目を丸くした。
「それぐらい知ってる」
「すごいだろ?」
彼が自慢げに胸をそらすから、どう反応していいのかわからなかった。
イズナが見せてきたそれはとある昔に花火玉と呼ばれた代物で、今ではその姿を見ることはほとんどない。
だってこんなものがなくても、花火を打ち上げることぐらい簡単だから。
「なんでそんなもの作ってるの?」
彼女が訊ねると、彼はちょっと首を傾げて口をへの字に曲げた。
「…嫌なんだよ」