Canna*



私は放心状態のまま
レジ台に顔をのせ
ゆっくり目を閉じる



お客さんが誰も
来なかったのが幸いだった



雅人が私の前から
いなくなってから
数時間過ぎた頃
私は外の小さな物音に目を覚ます



たった数時間前に
起きた出来事が


もう何年も前の事のようにも

つい1秒前の事のようにも感じた



そっと外に目をやると
さっきまで明るかった
辺りはもう暗くなっていていて


時計を見ると
もう10時を回っていた


いつもなら
閉店している時間から
3時間ほど過ぎている





私は立ち上がって
店を閉めようと
シャッタ―に手をのばす





途端に半分ぐらいまで
閉めかけたシャッタ―は
誰かの手によって止められた



一瞬、雅人の顔が浮かび
思わず期待しそうになった自分の気持ちを消して


シャッターを止めたお客様へ
もう店を閉める事を伝える




「…すいません



もう、店閉めるんで」



今日はいつもみたいに笑顔で
接客できるような気分じゃない


私はシャッターを
止めてる手にかまわず
シャッターを下げる


それでもいつまでたっても
手を離さないので



聞いてなかったのかな?

と思いもう一度
言い直す



「ごめんなさい

今日はもう閉めるので
お引き取り頂いて
もいいですか?



明日また来てください」

しばらくすると
シャッターの向こうから
男性の低い声が返ってくる


「急ぎなので


少しだけ開けて
頂だけますか?」




「今日じゃないと
だめですか?」


「多分、今日じゃないと
だめです」



…多分て


ウソだろ

そう思いながらも


なんとなく開けなきゃ
いけない気がして

仕方なくシャッター
を開ける





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