恋を、拳と共に
四章 冬の朝
茜 10
カサッ。
手に触れた、何か紙のようなもの。
――あぁ、まただ。
登校して真っすぐに昇降口に行き、靴を履き替えるために手を伸ばした自分の下駄箱。
その奥の方に入っているものを、そーっと取り出す。
「藤沢 茜 様」
几帳面に書かれた名前は、私に宛てたものだ。
周りに誰もいないのを確認すると、私はこっそり封筒を開いて中身を取り出す。
「藤沢様
突然このようなお手紙を差し上げることをお許しください。
先日の運動会であなたを見てから、あなたのことが忘れられなくなり……なんなのよ、みんな」
最後の一言は、思わず声に出てしまっていた。
ほんと、何なのよ。
最近、週に二日はこうだった。
いわゆるラブレターが、あの運動会の日以来、あちこちから届くのだ。
もちろん自慢ではなく、心底困っている。
無視するわけにも行かず、ちゃんと呼び出されたところに出向いたり、メアドを書き付けてきた人にはお手紙ごとお返ししながら、お断わりしてきた。
ごめんなさい、こういうの、困るんです。
友達から、って言われても、困ります。
ほんとにごめんなさい。
あれからどれくらい、ごめんなさいを言い続けているだろう。