恋を、拳と共に

「全部食べちゃうの、もったいないねぇ。ホントにおいしい」
残りあと1個になって、名残惜しくなってしまった。

「ねー。もったいないね」
千里も1個を残して、ウーロン茶を飲んでいる。

「でも、ちょっと元気が出たみたいで、よかった」
小さい声で千里が言う。

「何だか、気を遣わせちゃって、ごめんね」
私も小声で、千里に謝る。

「もう、だからー、茜は悪くないでしょう? 謝らなくていいんだってば」
千里は半分怒ってる声で、私を見ながら言う。
「……早く、茜ブームが過ぎるといいね」

私は自嘲気味に笑い、下を向いて、頷く。

最後の1個を、ぱくっと、口に入れた。
おいしいたこ焼きを最後まで味わって、ウーロン茶を飲み干して。

「よしっ、明日から、また頑張るぞっ」
私はお店の迷惑にならない程度の大きさの声で気合いを入れ、立ち上がった。

< 110 / 185 >

この作品をシェア

pagetop