恋を、拳と共に
「ねえ、茜。あれから、秦野くんとはどうなの?」
『たこ清』からの帰り道、千里がさりげなく、といった感じで訊いて来る。
「えへへ、訊かれると思った」
私は笑いながら答えた。
「実は、体育祭のあとから、全然話してない」
千里がびっくりした表情で私を見る。
当然だろう。
あれだけの激走を披露して、仲直りの握手までして、でもそれ以降何もないなんて。
「何だか気まずいっていうか……前は自然に話せてたと思うんだけど」
「秦野くんは、茜に何て言ってたの?」
「やっぱ、藤沢って、すげーや、って」
「そっかー……」
「私、やっぱり、秦野くんに避けられてるんだと思うんだ」
殴りつけるっていうと大げさだけど、攻撃しちゃったし。
もしかすると、陸上部だからっていって調子に乗って男子と同等に走ったせいで、嫌がられているのかもしれない。
恥をかかされたって思われてるかもしれないし。