恋を、拳と共に
「痛てぇっ」
ボールを受けた指先が痛い。突き指、したかも。
指がかじかんでいて、痛い場所がよくわからない。
左手で、痛みのある右手の指の関節辺りを押さえて、何とか痛みをこらえた。
「秦野、大丈夫か」
「爪、割れてねぇ?」
「保健室行け、保健室」
こう言いながら、他の部員が俺のところに集まってくる。
自分の指先を見ると、確かに、少し爪が割れて血がにじんでいた。
「悪い、ちょっと手当てしてくるわ。それでこのまま教室行く」
俺は、心配する部員に向かって無理やり笑顔を作って言った。
「ひとりで大丈夫か? 右手だろ」
原因となる球を打ったヤツが、心配そうに言う。
「大丈夫、なんとかなるよ。中断してごめん」
俺はそう言って、体育館を後にした。