恋を、拳と共に
萩野さんと話していた藤沢が、驚いた表情でこちらを見ている。
目が合った藤沢に、俺は僅かな笑顔を返す。
藤沢の唇が、「大丈夫?」と動いたように見えた。
俺は軽くうなずいて、包帯を巻いた方の右手で、無意識にピースサインをしようとした。
途端に鈍い痛みが起きて、思いっきり顔に出てしまう。
藤沢の表情がさっと曇ったかと思うと、藤沢は俺の席に向かって歩いてきた。
俺も自分の席に行って荷物を置いて、椅子に座る。
藤沢が、俺の机の前に立って、小さい声で言った。
「秦野くん、数学のノート、……1時間目の」
藤沢は手のひらを上に向けて、俺に向かって手を出している。
ノートが何だろう。