恋を、拳と共に
放課後になった。
さすがにこの指では今日の部活は無理だ。
俺は体育館にいる部員に休むことを告げ、さっさと帰宅することにした。
「はー、たーだいまっと」
鍵を開けて家に入り、誰もいない家の中に向かって、つぶやくように言う。
部屋に入って普段着に着替え、一息ついたところで、俺はかばんからノートを取り出した。
今日一日、藤沢が、俺の代わりに書いてくれたノート。
俺は、藤沢の気持ちをはかりかねていた。
純粋にクラスメートとして、利き手の使えない俺を気の毒に思ってしてくれたのか。
でも、それだけで、6時間分も(ノートのいらない授業もあったけど)、
ノートを代わりに取ってくれるなんてこと、してもらえるもんなのか。
……やっぱり、俺、多少は期待してしまっても、いいんだろうか。
期待してもいいのか。
ただの親切なのか。
やっぱり、諦めた方が、いいのか。
今日の最後に受け取ったノートを見ながら、俺は知らないうちに歯を食いしばっていた。
その時、ふと、ノートの隅に書かれた文字が目に入った。
『秦野くんへ』
俺は、一瞬、目を疑った。