恋を、拳と共に
下を向いたままだったけど、私は言った。
「こんな風な気持ちになったの、初めてだからよくわかんないんだけど……」
いつもの自分が発する声じゃないみたいな、か細い声。
やだ、しっかりしろ、私。
「たぶん、私も、秦野くんのこと……
すき、かも」
秦野くんの手が、自転車のハンドルを更に握り締めたのが、目の端に映った。
小さいけど、ほっとしたような、秦野くんの声が聞こえた。
「……よかった」
そして、秦野くんが言った。
「……歩こっか」
「う、うん、……そうしよっか」