恋を、拳と共に

「そっかぁ、茜も、ねぇ。 うんうん」
母が上機嫌で、お味噌汁を飲んでいる。
何が「茜も、ねぇ」なんだろ。

「なに? なんか気味悪いんだけど」

「アンタにも、ようやく、好きな人でも、なんてね」

「えっ……そ、そんなんじゃないよ」
慌てて否定してみるが、母は微笑んで私を見ているだけだ。

「まあ、別に連れて来いとかそういうのじゃないから。ぼーっとして階段から落っこちたりしないように気をつけなさいね」

「だっ、大丈夫だよ、そんなっ」
平静を装いつつ答える。
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