恋を、拳と共に
「あ、ご、ごめん。 あの、俺、歩くの速いかなって、聞こうと」
上から秦野くんの声がする。
「私こそ、前よく見てなくて……もしかしたらヨダレつけちゃったかもー」
片手で鼻と口とを押さえながら、私は答えた。
えーん、みっともないー。
「ほんと、ごめん。痛かった? 大丈夫?」
さらに訊かれるので、私はそのまま上を向いて、
「うん、大丈夫」
と答えた。
「もうちょっとゆっくり歩くね」
「うん、ありがと」