恋を、拳と共に

朝――茜の場合


私の朝は、気合いを入れるところから始まる。

――さて、今日も一日頑張るか。

軽く腰を落として、ヒジを曲げて、軽く握った両手を腰の横に。
空手の突きの要領で、拳を前へ。

「うりゃ!
 はっ!
 とっ!」


そしていつものタイミングで、
「うるさいよー、早く降りてきなさい!」
と母の声。


恒例の"毎朝10回の突き"をさわやかに終えて、私は一階のダイニングへ降りていった。


「おはようございますーっ」

「おはよう、茜……まったく毎朝のアレは、なんとかならないのかしらねぇ?」

「気合い入れないと、なんか一日始まらないんだもん……いっただっきまーす」

「それにしてもよ……。うら若き女子高生が何であんなオッサンみたいな声で……」

「もー、まいあふぁ、うぅふぁいー」

「わかったから、早く食べなさいね」
< 2 / 185 >

この作品をシェア

pagetop