恋を、拳と共に
そういえば、"俺が気になってる子は藤沢茜である"と白状させられたのも、
一年の終わり頃の、こんなゆったりした朝の電車の中だった。
あの時から、祐一はひとり暗躍して、彼女の情報を教えてくれる。
所属しているバスケ部以外にも仲のいい女子が何人もいて、あちこちから少しずつ聞き出してくれているらしい。
――だよなぁ。こいつ、話しやすい雰囲気あるもんな。
ちょっとうらやましい気もするが、持って生まれた性質というのもあるので、ありがたく恩恵にあずかっている。
「ねね、俺さ、茜ちゃんのメアドとか訊いてきてあげよっか?」
祐一が、こっそり、といった感じで俺に言ってくる。
ちょっとだけ、心が動いた。
「……頼んでも、いい?」
「すぐに、とは行かないかもしれねーけど、待ってて」
「ああ。……ありがとな」
「じゃあ、上手くいったらたこ焼きな、たこ焼き」
「『たこ清』の? いいぜ。ドリンクもつける」
「マジ? これは頑張らざるを得ないなぁ」
早くも心がたこ焼きに移ったのか、うっとりと窓の外を見る祐一。
まぁ、ほんとに『たこ清』のたこ焼きはウマいので、無理もないが。
俺はメールなんてあんまりしないけど、
でもやっぱりメールでやりとりするなら、多少仲良く話せるようになってから、なのかなぁ。
場違いな悩みを抱えながら、俺はまた藤沢のまん丸の瞳を思い出して、幸せな気分に浸っていた。
(第一章終わり)