恋を、拳と共に
階段から落ちそうになったところを、クラスの秦野くんに助けられた。
あの翌朝、教室で会ったときに一応お礼は言ったんだけど……
「あの、おはよう、秦野くん」
「……おはよう」
「昨日は、ほんとにありがとうございました」
ちゃんと両手を前に揃えて、ぺこり、と頭を下げて。
「いえいえ」
確かこのあたりで千里に呼ばれて。
「あ、呼ばれてるから、ごめんね、またね」
「うん、また」
こんなやり取りで終わっちゃった気がする。
もしかしたら、話し掛けたりしたの、迷惑だったかもしれない。
ちょっと下向いたりしてたし、最後なんてほっとした感じもしたし。
――もうちょっと、ちゃんとお礼言いたかったな。
降りる駅が近づいてきて、私は今日の朝練の準備の手順を、頭の中で組み立て始めていた。