恋を、拳と共に

陸上部のいそうなところに目をやると、ちょうどスタートダッシュの練習中のようだ。
あんまり視力のいい方ではない俺だが、あの独特の、弾けるような雰囲気の女子を見つけるのは、たやすかった。
俺のひいき目かもしれないが、やはり彼女は、集団の中にいてもひときわ目立つように思える。

顧問の先生が笛をピッ、と鳴らすと同時に、何人ずつかでスタートを切っている。
ちょうど藤沢が、スターティングブロックに足の位置を合わせ、準備に入っていた。

合図の笛と同時に、まるで打たれたパチンコ玉のように、ぱんっと飛び出す。
少し走って流して、彼女はまたスタート位置に戻って行った。


――速いなあ。



藤沢の走りをもう一回見たいな、と思っていたのに、無情にも先輩たちが揃ってしまった。

俺はひとつため息をついて、二年の部員たちと共に先輩たちの後を走り始めた。

< 29 / 185 >

この作品をシェア

pagetop