恋を、拳と共に
陸上部のすぐ横を通り過ぎることになる、と判った瞬間、俺は心の底から、この幸運を喜んだ。
藤沢はちょうどダッシュを終えて戻るところで、俺たちの走ってる方に向かって歩いてきている。
――何かに打ち込んでる時の藤沢、かっこいいな。
額に汗を浮かべ、何かを考えているような表情で歩いている藤沢に見とれながら走っていると、
ふっ、と藤沢がこっちを見た。
――視線が、合った。
数秒後、俺は激しく後悔した。
俺が藤沢を見ていたことを、もし、気付かれてたら。
キモイとか変な人とか思われたらどうしよう。
さっきまでの幸運を喜ぶ気持ちは吹っ飛んで、俺は意気消沈しつつ走り続けたのだった。