恋を、拳と共に
その日の帰り、駅に向かって歩いている途中。
前方にいる人たちの中に、秦野くんに背格好の似ている後ろ姿を見つけた。
――秦野くんだったら、ちゃんともう一回お礼を言わないと。
少し早歩きになって、その人に追いつく。
やっぱり思ったとおり、秦野くんだった。
「おつかれさまでーすっ」
斜め後ろ側から、声を掛けてみる。
秦野くんはかなりびっくりした様子で、私のほうを見た。
「ふ、藤、おっ、お疲れっっ」
かなり驚かせてしまったようで、却って申し訳なくなってしまう。
「ごめんね、いきなり声掛けちゃって」
「い、いや、だいじょーぶ。いま、帰り?」
「うん。最終下校時刻の直前で校門出てきたくらい」
「そか、……うん」
話が続かなくなっちゃった。
早く、ちゃんとお礼を言わなくちゃ。
「あの、この前は」
「ところでさ、」
――タイミングがかぶった。
秦野くんは引きつった笑顔のまま、私を見ている。