恋を、拳と共に
「こちらこそ、どういたしまして」
ふたたびにこっと笑いかけてくれる、藤沢。
どう返したらいいのかわからず、俺は下を向いてしまった。
……ダメダメじゃん。俺。
駅に着いて、改札に向かう階段を上り始める。
藤沢が階段の左端になるように俺は右に位置を変え、更に彼女の一段あとを上った。
藤沢は左手で手すりにつかまり、俺に向かって(なんで?)という表情を見せる。
「いや、あの、……また落ちたら、危ないし」
「あ、そっか! ありがとう、秦野くん」
すごく納得しました、という顔つきで、藤沢は階段を上り始めた。