恋を、拳と共に
突然、ケータイの着信音がして、千里が電話に出た。
おうちの人と話してるのかな。
「えぇ? 今から……? 間に合うかなぁ。うん、わかった、買って帰るから」
なんか困ってるような雰囲気の会話が終わって、千里が言った。
「茜、ごめん。おかあさんから電話でさぁ、どうしても夜ごはんまでに買ってきてほしいものがあるって言うのよー。
今から行って、ぎりぎりかもしれないから、もう電車に乗らないと」
ちょうどその話が聞こえたのか、学ランの入った袋を持って出てきた進藤くんが言った。
「何、千里ちゃん急ぐの? 帰り道、判る?」
「わかんない」
「そっか、じゃあ乗せてってやるよ。自転車の後ろ、乗りなよ」
「悪いけど、頼んでいい? 重かったらごめんね」
「気にしない気にしない。バスケ部の脚力なめんなーって勢いで漕ぐから!」
「あは、頼もしいや。よろしくお願いしますっ」
千里は、進藤くんとあっという間に話をまとめて、こっちを振り向いて言った。
「ってわけで、ごめん、茜、先帰らせてもらうねっ」
「う、うんっ、気をつけて」
勢いに飲まれて、私も早口気味で千里に返事をする。