恋を、拳と共に
トラックを半周ずつを走ることになっているので、奇数の順番の走者は反対側に移動することになった。
みんなについて歩いていると、秦野くんも歩いているのが見えた。
秦野くんが私に気付いて、歩きながらこちらに寄ってくる。
――どうしよう、謝らなきゃ。
「藤沢は何番目に走るの?」
秦野くんが先に声を掛けてきた。
「う、うん、5番目。アンカーの一つ前」
ここでいきなり「ごめんなさいっ」って言うのもヘンなので、質問に答える。
「ほんと? 俺も5番目。負けられねーな」
「私、本気で走るよ。短距離の選手なのに、一位以外だったら怒られちゃう」
「おぅ。真剣勝負だ」
秦野くんが真面目な声で言う。
思わず彼を見上げた。
目が合って、お互いにわずかに微笑む。
その時、スタートのピストルが鳴った。
応援席の生徒の声援で、校庭が一気に盛り上がる。
「手加減ナシだからっ」
声援にかき消されまいと、私は言った。
「あぁ。頑張ろーぜ」
秦野くんも、大きな声でこたえてくれた。