天使と悪魔―先生と彼女、二人の特別な事情
◆小さな展望台1◆

欧鳴館の先には急坂があり、切り通しになっている。

崖が両側に迫り、昼なお暗い切り通しは歩道が狭い。

二人肩を並べて歩けない。

「あっ」

声がしたので振り向くと暗い影にようこちゃんが座り込んでいた。

ヒールが取れてしまったらしい。

転がったヒールを拾って渡すとようこちゃんは微笑んだ。

「これでは歩けないね」

「大丈夫です。じゃあこうしたら・・・・・」

ようこちゃんはそう言うともう片方のヒールも取ってしまった。

カツカツという小気味の良い足音が、

ぺたぺたという何とも味気のない足音に変わってしまった。

切り通しをいくつか抜けると眺望が開け、山門が目に入る。

建長寺の山門だ。

お堂の材木の渋みのある色が年月の重みを思わせる。

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