ノイズ
有栖川教授は沢村を家に招き入れると、くっくと笑った。


「久しぶりの‘儀式’だからね。沢村くん、至福の時を共に楽しもうではないか」



「はい。教授」



沢村も思わずほくそ笑む。



地位も名誉もある教授の裏の顔を知っているのは、学内でも沢村しかいないだろう。


人生にはいくつもの曲がり角が存在するものだ。


右に曲がるか左に曲がるか、はたまた真ん中の道を行くべきか……人生は常に選択の連続で成り立っていると言っても過言ではない。


二年前のあの日、有栖川教授の研究室にさえ寄らなければ、沢村もごく普通の医大生として毎日を送っていたはずだった。


沢村は提出が遅れていたレポートを有栖川教授に届けようと、バイト帰りに大学に行った。


昼間は賑やかなキャンパスも、夜間はひっそりと静まり返っている。


真っ暗な廊下の中を常夜灯だけを頼りに歩く。

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